利き飲料
私は味の違いがわからない。
こう書くと「味覚障害?」と思われるがそういう意味ではない。
ちゃんと辛いものは辛いと感じるし、甘いものは甘いと感じる。
例えば、目の前にリアルゴールドとデカビタドリンクとドデカミンがそれぞれコップに入れられているとする。
それぞれのコップにどれが入れられているかはわからない。
そんな状態でそれぞれのコップを飲み、「これがリアルゴールドで、これがデカビタドリンクで、これがドデカミン」と言う風に当てることができるだろうか。
断言する。私にはできない。
おそらくそれぞれを飲み比べたとき、別の飲料であることくらいはわかるはずである。
しかし、それぞれがどの飲み物かはわからないだろう。
より正確に言うと、
まず、「これはリアルゴールドです」と言われてリアルゴールドを飲む。
次に、「これはデカビタドリンクです」と言われてデカビタドリンクを飲む。
その後に目隠しされてどちらかを飲む。
そうするとその飲み物がどちらかであることはわかるはずである。
しかし、一般的にリアルゴールドを飲んだ直後にデカビタドリンクを飲むことはまずない。
あるとすれば、飲料メーカーの社員くらいであろう。
ドリンクバーや自販機でそれらが共存している姿を見ることもない。
なので、リアルゴールドを飲んだとしても、なんとなくの「栄養系ドリンクの味」としか覚えていないので、しばらくして栄養系ドリンクを飲んだときに、それがリアルゴールドなのかデカビタドリンクなのかわからないのである。
だから正確には「味の違いがわからない」ではなく、「味の記憶が持たない」である。
居酒屋で困る
味の違いがわからないのは、何もリアルゴールド系ドリンクに限った話ではない。
驚かれるかもしれないが、ビールの違いもわからない。
ビールは有名どころで言うと、キリン、サッポロ、アサヒ、サントリー等があるが、私はどれも区別がつかない。
過去に「スーパードライは好きじゃない」とか「プレモルしか飲まない」とかいう人達を見たことがあるが、そのような人達とは真逆で、私にとってはどれも一緒だ。
「ビール」は「ビール」であり、それ以上でもそれ以下でもない。
「このビールは辛口だな」というのもよくわからない。
なので、「味の記憶が持たない」に加えて、「味覚の感度が低い」のだろう。
大抵の居酒屋では基本的にビールは1種類なので、いつも最初の一杯はそのビールを頼むのだが、しばらくすると強いお酒を飲もうかという気分になる。
日本酒か焼酎を飲もうとすると、大抵の居酒屋ではそれぞれ何種類か用意してある。
ここでいつも困るのだ。
銘柄を見てもどれがどういう味なのかわからないからである。
なので、いつも適当に頼んでいる。
よく同席した人は「この銘柄は前飲んだとき美味しかったからオススメだよ」と言ってくれるが、本当にすごいと思う。
なぜ、味の違いがわかり、味を覚えていられるのか。
私には日本酒の味は「日本酒の味」としか感じないし、焼酎は芋なのか米なのかもよくわからない。
一流の人、映す価値のない人
正月になると、毎年某テレビ番組で、「一流のものと二流以下のものを見分けられるか、見分けられなければ映す価値なし」という企画をやっている。
どうやら毎年高視聴率をたたき出しているようだが、私はあの番組が好きじゃない。
私がもしあの番組に出たら、間違いなく見分けられないからである。
なんとなくそういう人間を馬鹿にするようなテイストなので、好きになれない。
あれを楽しげに見ている人は皆自分は見分けられると思っているのだろうか。
どちらが幸せか
ここまでの文章を読んだ人の中からは「味の違いがわからないなんてかわいそうな人」と思われるかもしれない。
だが、本当にそうだろうか。
私のような「違いのわからない人」の方が幸せな可能性もある。
なぜなら、安いもので満足できるからである。
横軸に価格、縦軸に味の良さをとったグラフを作成した際、たいていの食べ物・飲み物は右肩上がりのグラフになるだろうが、おそらくどれも価格があがるにつれて傾きが小さくなっていくはずである。
最初は価格を上げればその分、味も良くなるだろうが、だんだんその差分が小さくなっていくに違いない。
Y=√Xのようなグラフになるはずである。
これは私に限らず一般論としてそうだと思う。
いくら味覚が優れている人間であっても、どこかで味覚の限界がきて、その差分を判別できなくなるはずである。
その点をその人の"味覚限界"と呼ぶことにしよう。
私はその"味覚限界"が一般の人に比べて早いタイミングで訪れるのである。
これが何を意味するか。
一般の人より安い味で満足できるのだ。
この「不器用な舌」は言い換えるならば、「コスパの良い舌」なのである。
本当に幸せなのは私の方だ。
決して強がりではない。
決して。