少しずつ世界を変えていく。
妻のチャット
私も妻も在宅勤務が中心で、たまに作業中の妻のPCが目に映ることがある。
妻の会社では、コミュニケーションはチャットが主で、メールはあまり使っていないらしい。
その妻のチャットを見て感じた印象があった。
なんかフランクなのだ。
私の業務チャットより明らかにフランクなやり取りをしているように思える。
ちゃんと見ていないが、理由の一つは絵文字だと思う。
妻はチャットで積極的に絵文字を使っていた。
一方、私の会社では絵文字を使う人はまずいない。
使うとしても、誰かのコメントに対し、"見ました"の意味を込めて、親指を立てるマークを付けるくらい。
私と妻はだいぶタイプが違い、人との距離を詰めたり、良好な関係を築いたりすることに関しては明らかに妻の方が得意だ。
そこで私は、妻を参考に、普段の業務チャットに絵文字を取り入れるようにした。
顔の見えない相手
というのも、私は今の職場に来てから2ヶ月弱しか立っていないうえ、私が在宅中心の働き方をするものだから、チームのメンバーと親密な関係を築いているとは言い難い。
今、業務でよく使っているチャットグループは、15人くらいで構成されており、関係会社のメンバーも含まれている。
関係会社の人とは、普段オフィスのフロアも違うため、顔を見たことすらない。
オンライン会議で声は知っているが、基本カメラオフなので、どんな見た目なのか全くわからない。
顔を知らないのは相手からしてもそうで、私がチャットで発言する際に、内容によっては意図とは違うように受け取られる可能性がある。
一般論として、同じ言葉であっても表情や性格によって意味合いが変わることは多い。
私にそんな気はなくても、向こうからしたら生意気に捉えられる可能性は十分にある。
そこで、私は危険な人間ではない、親しみやすい人間であるということを明示するのに、絵文字は有効だと思い、チャットに取り入れるようにした。
(ただ、最近は"おっさん構文"というものが存在するらしく、絵文字を入れることがおっさん構文にならないか、妻に確認はした)
バリエーション
私はまだ新参者なので、グループチャットで発言する頻度は少なく、基本的に何かの作業報告が多い。
「◯◯の申請完了しました」といった報告の末尾に、ニコニコ笑顔の絵文字を添えるようにした。
絵文字を付けなかったときと比べてなんとなく明るい印象が出た気がした。
それ以降は、毎回絵文字を添えるようにした。
(もちろん私がミスをしてしまったときなどは、煽りになりうるので付けない)
しかし、問題があった。
ニコニコ笑顔のバリエーションが少ないのだ。
いつも同じ絵文字だと、"とりあえず付けてる感"が出ると思い、日によって違う絵文字を使いたいのだが、ニコニコ笑顔のバリエーションが少ない。
さすがにチャットグループのメンバーは皆私より歳上かつベテランなので、ベロを出しているような、ふざけすぎた絵文字を送るわけにはいかない。
(そんなことをしたら逆効果だ)
あくまでも爽やかに、明るい印象を持ってもらいたい。
そこで、目をつけたのが動物の絵文字だ。
犬、猫、ウサギといった小動物の顔の絵文字があったので、それを付けるようにした。
そうして、日によって絵文字を変えていった。
皆思っていた
つい最近、職場のメンバーで飲み会をすることになった。
その場には、同じフロアのメンバーだけでなく、2名ほど関係会社の人が来ていた。
その2名とは、仕事でのやり取りはあったが、会うのは初めてで、声の印象とだいぶ見た目は違って驚いた。
飲み会が盛り上がってきたとき、ベテランの一人が私に対してこう聞いてきた。
「ねえねえ、気になってたんだけど、あのエビは何!?」
その発言を聞くやいなや、その場の皆が一斉に、
「あー、そうそう!」
「俺も気になってた!」
と言い始めた。
私はいろいろな絵文字を使うようにしていたのだが、一度何かの報告の際に、エビの絵文字を使ったことがあるのだ。
「◯◯の提出終わりました🦐」
みたいな感じ。
私としては、ニコニコ笑顔の絵文字の代替品程度の感覚で使用したのだが、どうやらこのエビに皆困惑したらしい。
「このエビの意味はなんだ??」
「なんでエビ??」
「そもそも、エビの絵文字なんて存在するのか」
といったような困惑を招いていたらしい。
しかも、それを誰も口にすることも、チャットで反応することもなく、ずっと内に留めていたらしい。
なんとなく思ってはいたけど、それが自分だけじゃなかったという安心感と共感から、その場がどっと盛り上がった。
「いや、不思議に思ったんなら言えよ!」と思うし、そもそもそんな絵文字程度に皆が意味を求めることに驚きだった。
更に言うなら、犬や猫はOKなのに、エビは気になる感覚が私にはわからなかった。
(どうやら私の感覚がズレているらしい)
何かが変わった
私は、「やっちまったか」と思った。
私の会社は"線からはみ出ること"をひどく嫌う。
集団の枠からはみ出るような行為をすると、反発を受けることがある。
たとえそれが理にかなっていようと良い行動であろうと元に戻そうとする作用が働くことがある。
またやってしまったか。
そう思い、
「すみません、これからは絵文字やめます!」
と私が言ったところ、
ベテラン社員からこう言われた。
「いや、やめなくていい。続けてほしい」
他の社員からも、
「◯◯さん(私のこと)のチャットが唯一の癒やしなんですー」
「◯◯さんが来てから、確実に"何か"が変わった気がします」
と言われた。
どうやら良い方向に働いていたらしい。
その飲み会以降、グループチャットでエビが飛び交うようになった。
私はこの会社のコミュニケーションのとり方を変えたいと思っていたが、少し変えることができたらしい(エビ以外も使えとは思うが)
環境を変えることは、とても労力のかかることで、自分ができることとは本当に少ない。
でも少しではあるが、何かを変えることができたのならそれはとても嬉しいことだ。
できることをコツコツと。
〜おまけ〜
別フロアのまだ会ったことない関係会社のメンバーからは"エビの人"となっているらしい